製造業の現場で「機械が壊れる前に異常を検知したい」というニーズは古くからありますが、従来のソリューションは高額でクラウドに依存するものばかりでした。2026年1月、Arduino ProとRaspberry Pi Ltdが共同で発表した「EdgeSense AI Platform」は、この常識を覆す革新的な産業用IoTプラットフォームです。フルキット299ドルという中小企業でも手が届く価格帯で、エンタープライズ級の予知保全システムを実現します。
二段構えのエッジAIアーキテクチャとは
EdgeSense AI Platformの最大の特徴は、新型Arduino Portenta H9とRaspberry Pi Compute Module 6(CM6)を組み合わせた階層型の処理構造にあります。Portenta H9は800MHzで動作するCortex-M7と240MHzのCortex-M4のデュアルコアに加え、5 TOPSの性能を持つNPU(ニューラルプロセッシングユニット)を搭載。振動分析や異常検知といったリアルタイム性が求められるタスクを、10ミリ秒以下の超低レイテンシで処理します。
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一方、CM6は3.0GHzで動作するCortex-A78クアッドコアを搭載し、より複雑なAI推論やデータ分析を担当します。この二段構成により、単一デバイスでは実現困難だったリソースの最適配分が可能になりました。さらに注目すべきは消費電力で、通常動作時でわずか2.3W、スリープ時には18マイクロアンペアという省電力設計。従来のソリューションと比較して70%もの電力効率改善を達成しています。
オープンソースの力を産業現場へ
このプラットフォームのもう一つの革新は、Arduino IDEとPythonの両方でシームレスにプログラミングできる統合開発環境です。世界中に広がるArduinoとRaspberry Piのコミュニティが蓄積してきた膨大なライブラリやサンプルコードを、そのまま産業用途に活用できます。Bosch製の高精度センサー(IMU、気圧センサー、AIガスセンサー)を統合したセンサーハブも標準搭載され、開封後すぐに予知保全システムの構築を開始できます。
通信機能も充実しており、WiFi 6E、BLE 5.3、ギガビットイーサネットを標準装備。さらにMQTT、LoRaWAN、NB-IoT、5Gに対応したモジュラー設計により、工場内の既存ネットワークインフラに柔軟に統合できます。OTA(Over-The-Air)アップデート機能により、機械学習モデルの遠隔更新も可能で、システムを停止することなく性能向上を図れます。
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実証実験で証明された効果
既にドイツ、日本、米国の製造業50社でパイロットプログラムが進行中で、初年度で85%の設備ダウンタイム削減を実現したケーススタディも公開されています。ある自動車部品メーカーでは、プレス機の振動パターンをリアルタイム監視することで、従来は年3回発生していた突発的な故障をゼロに抑えることに成功しました。
重要なのは、このシステムが完全にオフライン環境で稼働できる点です。クラウドへのデータ送信が不要なため、機密性の高い製造データを工場内に留めることができ、データ主権の確保が可能です。これは欧州を中心に高まるデータプライバシー要求にも合致します。
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産業IoTの民主化がもたらす未来
EdgeSense AI Platformは2026年3月から開発キットの出荷を開始し、初年度で20万ユニットの出荷を目標としています。Arduino ProとRaspberry Piという二大オープンソースプラットフォームの協業は、産業IoTの世界に大きなパラダイムシフトをもたらすでしょう。
2026年第3四半期には、農業での土壌監視、スマートシティでのインフラ管理、ヘルスケアでの遠隔モニタリングなど、製造業以外の分野への展開も予定されています。欧州のIndustry 5.0イニシアチブへの準拠認証取得も進めており、グローバル標準としての地位確立を目指します。
高額な専用システムしか選択肢がなかった予知保全の世界に、オープンで手頃な価格のソリューションが登場したことで、中小企業を含むあらゆる規模の事業者がデジタルトランスフォーメーションの恩恵を受けられる時代が到来しつつあります。メーカーコミュニティとプロフェッショナル産業用途の架け橋となるこのプラットフォームは、まさに産業IoTの民主化を象徴する存在と言えるでしょう。


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